米司法省は2026年3月19日、サーバー大手Super Micro Computer(Supermicro)の共同創業者ら3名を、NVIDIAの先端AIチップ計25億ドル(約3,750億円)相当を米輸出規制に違反して中国に密輸した容疑で逮捕・起訴した。偽装サーバーやシリアルナンバーの付け替えなど巧妙な手口が明らかになり、AI半導体をめぐる米中対立の最前線が浮き彫りになっている。
Supermicro本社(カリフォルニア州サンノゼ)(出典:NBC News)
逮捕された3名
- Yih-Shyan「Wally」Liaw(71歳、米国籍)── 1993年にSupermicroを共同創業。上級副社長兼取締役。カリフォルニア州で逮捕、保釈中
- Ting-Wei「Willy」Sun(44歳、台湾籍)── 第三者ブローカー。カリフォルニア州で逮捕
- Ruei-Tsang「Steven」Chang(53歳、台湾籍)── Supermicro台湾ゼネラルマネージャー。現在逃亡中
25億ドル密輸の手口
起訴状によると、2024年から2025年にかけて以下のスキームが実行された。
1. ダミー注文による偽装
Liaw氏とChang氏は、東南アジアの企業に対して「自社用」として偽の購入注文を出させ、実際にはNVIDIA A100・H100・B200・H200チップを搭載したサーバーを発注した。
2. 多段階の転送ルート
サーバーは米国で組み立てられた後、Supermicroの台湾拠点を経由し、東南アジアの企業に移送。そこで物流会社が識別パッケージを除去し、無印の箱に詰め替えて中国に発送した。
3. ダミーサーバーで監査を欺く
米商務省の監査官を欺くため、東南アジアの倉庫に数千台の非機能的な「ダミーサーバー」を設置。監視カメラの映像には、Sun氏と共謀者がヘアドライヤーでシリアルナンバーステッカーを剥がし、偽造サーバーに貼り替える様子が記録されていた。
4. 暗号化メッセージで調整
数量、配送先、隠蔽戦略に関するやり取りは暗号化メッセージングアプリで行われていた。
「このような転送スキームは数十億ドルの不正利益を生み出し、米国の国家安全保障に直接的な脅威をもたらす」── Jay Clayton米国連邦検事(ニューヨーク南部地区)
罪状と量刑
罪状 | 最大刑期 |
|---|---|
輸出管理改革法違反の共謀 | 20年 |
密輸の共謀 | 5年 |
米国政府に対する詐欺の共謀 | 5年 |
Supermicro株は33%暴落
逮捕報道を受け、Supermicro(SMCI)の株価は3月20日(金)に33%暴落。時価総額にして50億ドル以上が消失した。同社は2024年のピーク時に670億ドルの時価総額を誇っていた。
Supermicroは声明で「起訴状で指摘された行為は当社のポリシーおよびコンプライアンス管理に反するもの」とし、Liaw氏とChang氏を休職処分、Sun氏を解雇したと発表。会社自体は被告ではないと強調した。
「NVIDIAの規制対象コンピュータの中国への不法転送は、あらゆる面で損失しかもたらさない。NVIDIAはそのようなシステムにサービスやサポートを一切提供しない」── NVIDIA広報
背景:米中AIチップ輸出規制
本事件は、米国が2022年10月以降段階的に強化してきたAIチップの対中輸出規制の文脈で理解する必要がある。
- 2022年10月:バイデン政権がNVIDIA A100等の対中輸出を制限
- 2023年10月:規制回避用チップへの抜け穴を封鎖、43カ国に制限拡大
- 2024年12月:エンティティリストに140社追加、高帯域幅メモリ(HBM)も制限対象に
Financial Times の報道によると、輸出規制強化後の3ヶ月間に中国は約10億ドル相当の先端AIプロセッサを入手したとされており、密輸ルートの存在は以前から指摘されていた。今回の事件は、その最大規模の摘発となる。
まとめ
AI半導体の輸出規制は、技術覇権をめぐる米中競争の最前線だ。Supermicro共同創業者という業界重鎮の逮捕は、規制の実効性に対する疑問を突きつけると同時に、米国政府の取り締まり姿勢の本気度を示すものとなった。





