OpenAIが2026年2月に鳴り物入りでローンチした「Buy it in ChatGPT(ChatGPTで買う)」機能が、わずか1ヶ月で大幅な戦略転換を余儀なくされた。Etsy、Shopify、Walmartなど大手小売と連携したAIネイティブな直接決済から、小売業者のアプリ統合モデルへと舵を切る。AIコマースの理想と現実が浮き彫りになった。
Agentic Commerce Protocol(出典:Stripe公式ブログ)
「Buy it in ChatGPT」とは何だったのか
2025年9月に発表され、2026年2月16日に正式ローンチした「Buy it in ChatGPT」は、チャット画面から直接商品を検索・購入できるAIネイティブなショッピング体験だった。OpenAIとStripeが共同開発したオープン規格「Agentic Commerce Protocol(ACP)」をベースに、以下の仕組みで動作していた。
- ユーザーがChatGPTに欲しいものを伝えると、AIが商品を推薦
- 商品カードに画像・価格・販売者情報を表示
- 「Buy」ボタンからApple Pay、Google Pay、カードで即時決済
- 従来4〜8分かかっていた購入プロセスを30〜90秒に短縮
参加小売業者にはEtsy(全米セラー統合)、Shopify(100万店舗以上を予定)、Walmart(約20万商品)、Target、Instacart、DoorDashなどが名を連ねた。
なぜ失敗したのか──3つの課題
1. 小売業者の統合が進まなかった
100万店舗以上の統合を掲げたShopifyだが、実際にInstant Checkoutに対応していたのはわずか約30店舗。マーチャントのオンボーディングは「困難を極めた」と評された。
2. コンバージョン率の低さ
Walmartの幹部は、ChatGPT経由のコンバージョン率が自社サイトの3分の1にとどまったと明かしている。ユーザーの78%がAIツール内での購入を完了しなかった。
3. データの正確性
Webスクレイピングに依存した商品データは、在庫状況・配送時期・送料の正確性に欠け、消費者体験を損なった。
「OpenAIはトランザクションの実現がどれほど困難かを過小評価していた」── Bob Hetu氏、Gartnerアナリスト
新戦略:小売アプリのChatGPT統合
方向転換後、OpenAIは小売業者が独自のアプリをChatGPT内に構築するモデルに移行した。購入はChatGPT内のブラウザまたは外部サイトへリダイレクトされる。
- Walmart:AIアシスタント「Sparky」をChatGPT(およびGoogle Gemini)に統合。2026年春に無料ユーザーにも展開予定
- Shopify:全店舗を対象とした「エージェンティック・ストアフロント」を3月末にローンチ
- Etsy:専用ChatGPTアプリを開発中
また、OpenAIは新たに「Shopping Research」機能も追加。数分かけて複数商品の詳細比較レポートを生成する、より慎重なアプローチだ。
AIコマース市場の行方
Instant Checkoutの後退にもかかわらず、AIコマース市場は急成長を続けている。
指標 | 数値 |
|---|---|
ChatGPT 週間アクティブユーザー | 8〜9億人 |
1日あたりのショッピングクエリ | 5,000万件 |
生成AIでショッピングする米消費者 | 59% |
2026年エージェンティック小売市場 | 604億ドル |
2030年の米国AIコマース予測 | 1,900〜3,850億ドル |
競合も動いている。Googleはリアルタイム在庫データとマルチアイテムカートに対応したショッピングエージェントを展開。AmazonはAIショッピングボット「Rufus」と「Buy for Me」エージェントを提供する一方、自社サイトへのChatGPTクローラーをブロックしている。
「現時点でChatGPT内の小売アプリの成功は見えない。普及には時間がかかる」── Emily Pfeiffer氏、Forrester主席アナリスト
まとめ:AIショッピングの理想と現実
ChatGPTのショッピング機能の方向転換は、AIが既存の商取引インフラに統合される難しさを象徴している。「AIで全てが完結する」という理想から、「AIは入口、決済は既存インフラで」という現実的なアプローチへ。この試行錯誤の過程こそが、AIコマースの本格普及に向けた重要なステップとなるだろう。
参考:OpenAI公式ブログ / Stripe ACP / CNBC




